青いシャベル

晴れの日。道を歩いていくと向こうから乳母車を押した女が歩いてきた。なんと長閑な光景よ、と思いつつ行くとすれ違い様に「あれ、シャベルどこにやったの?」と女が乳母車の中を覗き込んで言っていた。子供が握っていたシャベルを落としたのかな、と思った。しばらく行くと案の定、プラスティックでできた青いシャベルが落ちていた。拾いあげ、乳母車の女のところまで道を戻った。すみません、これ、落ちてました。青いシャベルを差し出すと女の表情がぱっと明るくなり「わあ、すみません、ありがとうございます。」と頭を下げた。あまり深々と頭を下げるものだから、やめてくれやめてくれ、痒くなる、と思い足早にその場を立ち去ってしまった。しかし悪い気はしなかった。口笛を吹きたいなと思った。そうして懐かしいメロディを吹きながら、私は道を歩いていった。