美味いビール

夢を見た。俺は美味いビールを求め方々を旅していた。北に美味いエールがあると聞けば北へ行き、西に美味いスタウトがあると聞けば西へ出向いた。それでも美味いビールは見つからなかった。或いは俺が求めるビールなんて最初から無くて、俺は俺が創りだした幻を求めているのだけなのだろうか?そんなことを思い始めた頃、女が現れた。艶かしい女、それでいて何も知らないような顔をしている女。女は俺を自室に誘うと、グラスにビールを注ぎ「さあ飲んで」と促す。俺は言われるがままにビールを一口。その味はずっと俺が求めていた美味さ—甘味だとか酸味だとか塩味だどか苦味、それから温かさだとか善だとか—が全て混在し、それでいて調和している、そんな美味さだった。やっと見つけた。これが、これこそが俺がずっと求めていたもの。やっと見つけた。二口目を飲もうとすると、視界の端に映った女が止めるような素振りをする。構わない、俺は呼吸をするのも忘れてビールを含んだ。するとどうだろう、あろうことかそれは水に変わっていた。それから女も、部屋も、ビールも霞んでいき、気が付くとそれらは無くなっていて、俺はひとり路地に立ち尽くしていた。そこで目が覚めた。